肌を刺す空気とともに霧が流れていく。
山々で発生した朝霧が、冬の寒さを頼りに森にまで降りてくるのはよくあることだ。
だが、その日は妙な違和感を覚え、春冥はあたりを観察した。
「なんか、変なの…」
森の奥、人の立ち入らぬ山際に一本、抜きんでている杉の木の上。
そこは魂鎮めの森の中で春冥が知る限り、、最も高い場所であった。
翡翠色の袴に白妙の着物を着た、齢十ほどの少年は、
見た目にそぐわぬ神妙な面持ちで目を細めて、杉の木の先端に器用に立つ。
一見どこにでもいそうな少年に見えたが、右は紅、左は碧の瞳に乳白緑の髪と、
どこぞの夜店で買ったような狐の面は、彼が徒人でないのを顕にしている。
それを証明するかのように、妖、精霊、獣…人外がひしめく森で、少年を訝る者はいない。
ここでは、「人」こそが違和の対象だからだ。
「どこぞで、誰かが悪さでもしてるのかな~」
人ごとのように呟く声は非常にけだるげだ。
頬をなでる髪をはねのけながら霧を目で追う。
さわさわと森をなで、土地を冷やし、周辺の空気を吸い取り、東へと向かって走って行くのがわかる。
東には人の地がある。
静かな森を荒らすのは、いつだって人であることが多いことを春冥は知っている。
もしくは、鬼族や知能や理性を持たない魑魅魍魎の類だ。
特に魑魅魍魎は春冥が大切にしている森を重んじる考えを持つ者はほぼいない。
時折、森の住人たちも騒ぐことがあるが、春冥が気になるほどの原因になることはない。
また、騒ぎがあったとしても、森の住人達は静かだ。
力の弱い妖や獣たちは、息をひそめて、関わりあいになるのを避けているからだ。
逆に力の強い者たちは、面倒と関わるのを厭って、顔を出さない。
ただ、この異変の当事者たちが騒ぐばかりだ。
じっと観察しても霧は冷気を増していく。
さらには、遠く、山奥から、木々をなぎ倒す音が響いてきた。
かこーん、かこーん、と斧を振り落とす音に次いで、木が倒れていく音が何度もする。
天狗囃子だ。
「うわぁ、聴きたくない音が聞こえてきた…」
不穏な音にしか聞こえない、森の住人が出す音に春冥は棒読みで呟いた。
山奥の寡黙な修験者たちまでもが、目を覚ましたようだ。
囃子を打つような怪音は警告か、それとも騒ぎを呷るものか。
「うーん、一応、様子は見にいくけど、面倒事はやだなー。
あ、そうだ!
人がらみの面倒事なら螺旋に押しつけて、鬼がらみなら白貴に押しつけよ~。
それ以外なら、からかって遊んでやろう。うん、それが良い♪ 春冥くんってば、頭い~♪」
木の上で独り結論を出して春冥は得意満面の笑顔を雲に隠れた空に向けた。
「さて、僕の森に面倒事を持ってきた輩の面を拝んでこようかな」
霧が濃くなった森を見渡し、春冥はにやりと笑うと、木の先端で器用にしゃがみ、降りる態勢をとる。
「暇つぶしにはなると良いけど」
狐の面をかぶり直して、春冥はその場を後にした。
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思い付き小話で文リハビリ。
山奥の冬の朝って、独特な空気が流れていて、
一匹ぐらい妖怪が出てきてもおかしくない空間だと思うんです。
うーん、最近文章のぐだぐだ化が酷いです;
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